日本全国を旅する風俗評論家・岩永文夫氏が各地の裏風俗や温泉、酒、うまいもの、観光地などを紹介する旅情いっぱいのコラムです!
46.小名浜(福島県)
大地震があってから東北地方の復興が進んでいるのかどうかは分からないけれど、一部では確実に復興景気とかで盛り上がっている地区もあるようだ。
そりゃそうだ!ン百兆円もの大金が投じられているのだから当然のこと。なかでも一番の儲け頭は仙台のキャバクラである。何たって、お嬢のギャラが時給八千円前後だというから凄い!これ地元の建設業者が、東京の大手ゼネコンから仕事を受注するための“御接待”とかで、滅茶やたらに店を利用するからだそうで。それも一晩で百万円以上ものお金を湯水のように散財しているという。
それはそうとして大地震以降で仙台以外にも好調なフーゾク地区がある。それは福島にある小名浜のソープランド街である。ただしこちらは接待景気ではない。もう少し切実なのだ。
福島といえば原子力発電所である。その原発が、呆気(アッケと読みませう)なくも、いとも簡単に爆発してしまった。そして、こちらには震災直後から、多くの労働者が全国から集められて来て爆発後の後片付けというか、いま現在も発散し続けている放射能に対する何か仕事をやっている。
もちろん彼らは、青年や壮年の男性であって、体力はバッチリの単身赴任者が殆んどである。そのせいか一日のお仕事が終わるや、仕事中に浴びた放射能を洗い流して、さらにスッキリサッパリしたいと小名浜のソープランド街へと遊びに来るようなのだ。
「でなきゃあ、やってられねえよナ」と一杯機嫌で話してくれる勤労青少年のオニイさんは多い。というか、夜だけでなく昼間でもアケ番の連中が原発あたりから足を伸ばしてくる。それで小名浜に十数軒あるソープランドはことのほか流行っているのだ。しかし雰囲気として、次のような情報を流すのはちょいと憚られた。「ご当地にはそれなりに客が来ているし、女の子たちも食えない東京よりもEかもしれないと集まっている」なんてことをネ。こう言うのも自粛というのかな。
それが今ではソープ街のすぐ傍(ソバと読もう)の小名浜漁港も、震災直後にあった瓦礫の山もすっかり片付けられて、新しい港になっている。そして町のなかにある「いわき・ら・ら・ミュウ」という訳の分からない名前の付いた物産センターや、付近の水族館などにこの頃では、それなりの観光客と思しき人たちが群がっている。多少は復興されたのかなぁ?
ところで小名浜に東京から行くには、どうしたらよいのか。これがちょいと分かりにくいのだ。まずは上野駅から常磐線で二時間ほどかけて、泉というそれほど有名でない駅まで行く。そこの駅前からからタクシーに乗って約十五分ほどで波止場に着く。そこからは鹿島街道を横切り、橋を渡った目と鼻の先に目指すソープ街がある。
いまから三、四十年ぐらい昔には、この東北の鄙びた漁港のソープには、毛糸の腹巻にズク(一万円を百枚一束にした札束)を何本も差し込んだ漁師のオトウさんやオニイさんたちが漁船から繰り出してきた。ご当地の一番良かった時代である。漁師以外は目もくれない小名浜ソープ業界だったのである。
それが原発爆発以来の様変わり、最近ではそちらの方からやって来る連中が主客、漁師関係は、ちょい分が悪くなっている。だがいずれにせよお客様はお客様、平均すると殆んどの店が料金1万6000円(60分)ほどなのだが、それを持って遊びに来る人には皆優しくしてくれる。
小名浜の町は、ソープランドも飲食店も民家も全てが一緒くた。その上、お遊び代も大二枚以下で片付くという、どこか鄙びた心置きなく居られる町なのだ。遊ぶ前の下準備には地元いわきの酒で「又兵衛」という逸品がある。それと記者が好むのは同じ福島県内でも南会津の地酒「国権」というまろやかで、冴えたコクのある酒である。
ツマミは、やはり浜通りにある御当地だからこその、サヨリ、飛び魚、鰈、カツオ、鯛、いなだ、鯖、アジ、平目といったオールシーズンの海の幸。それとカニ汁もある。さらには、浜通りと並行してある中通りや、会津の山間部からの山の幸も多い。
その意味では、原発さえなければ福島はニッポン國のなかでもイロイロなものが全て揃った素敵な県だったのである。でも、久しぶりに行った小名浜は、観光客もソープの客もそれなりに戻ってきているように思えた。